電気工学を勉強していると「接地」や「地絡」といった単語が出てきます。
「接地」や「地絡」について、理解できていない人は多い内容ではないでしょうか?
理解している内容としても「A種接地は10Ω以下で・・・」、「D種接地は100Ω以下で・・・」といった、「電気主任技術者」や「電気工事士」での勉強で覚える内容だけの方も多くいます。
接地について理解してないと、感電や機器を破損させる原因となります。
この記事では、接地する目的や地絡の内容について詳しく解説させていただきます。
接地の知識は【電気主任技術者】や【電気工事士】の勉強にも役に立ちます。
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接地の目的を理解しよう!
一般的に電気回路を接地することの目的は以下の3つです。
- 感電の防止
- 電気機器の損傷防止
- 地絡故障の検出および保護
接地による感電防止
電気設備技術基準の解釈では、『60Vを超える電路』には漏電遮断器(ELCB)を取りつけるように規定されています。
※発電所・変電所・乾燥環境を除く等、例外もあります。
つまり、人が触れる部分の電圧を60V以下に保持するように接地させ、漏電遮断器(ELCB)を設けるように義務付けられています。
もちろん家やアパートにも設置されています。
人体への感電の影響
人が電気に触れて感電死する電圧は何ボルトか知っていますか?
答え:42V
「???」と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
家のコンセントって約100Vですからね。
人体が著しく濡れている状態や金属製の電気設備等に人体が常時触れている状態では『25V』、通常の状態では『50V』と一部では言われています。
42Vでも体が濡れていれば感電死する危険が十分にあります。
『42Vは 死にボルト』、 『電気は低圧でも危険』という認識をしっかり持つことが大切です。
低圧でも触っただけで死ぬことがあります。
感電に関しては、V(ボルト)よりもA(アンペア)で表されます。
出典ー関東電気保安協会
上図からみると、【10mA】以上の電流が人体に流れると危険であることが分かります。
皮膚の状態 | 接触抵抗値 |
乾燥 | 2,000~5,000Ω 程度 |
汗ばむ | 800Ω 程度 |
濡れる | 0~300Ω 程度 |
抵抗は人体の内部抵抗と皮膚の接触抵抗の合計です。
人体の内部抵抗は一般的に『500(Ω)程度』となります。
オームの法則を使用して計算してみましょう。
オームの法則については『オームの法則を覚えよう!│電気工学(電気回路基礎)』で解説していますので、興味がある方はご確認ください。
計算式は『電流(A)=電圧(V)÷抵抗(Ω)』です。
条件として、一般家庭で使われる『100V』、人体の内部抵抗『500Ω』を計算に使い、小数点第四位を四捨五入します。
おまけで『42V』でも計算してみます。
皮膚の状態 | 接触抵抗値+500Ω | 電流(100V計算) | 電流(42V計算) |
乾燥 | 2,500~5,500Ω 程度 | 18~40mA | 8~16.8mA |
汗ばむ | 1,300Ω 程度 | 77mA | 32mA |
濡れる | 500~800Ω 程度 | 125~200mA | 53~84mA |
※電流(A)×1000=電流(mA)
通電経路と通電時間も影響しますが、致命的な障害を起こす電流が流れることになります。
濡れた状態では、100Vで最低でも『125mA』、42Vで『52mA』ですので、とても危険であることが分かりますね。
電気機器の損傷防止
異なる電圧同士の電源混触や雷(直撃雷・誘導雷)、開閉サージなどの要因により、異常電圧(過電圧)が発生すると、電気機器や電気設備の絶縁物を破損・破壊または劣化させてしまいます。
接地することにより、過電圧の発生を抑制させることができます。
開閉サージとは
遮断器、断路器等の開閉操作によって、系統のある地点の相と大地間あるいは相間に発生する過電圧をいう。代表的なものとして、遮断器の投入過電圧(投入サージ)と遮断過電圧(遮断サージ)および断路器サージとがある。線路の地絡やその回復時に発生するサージ性過電圧も、発生波形が類似しており、かつ地絡故障は回路の開閉と考えられるため、広義の開閉過電圧に含める場合がある。開閉過電圧の波形や波高値は、線路長、系統構成、電源容量、中性点の接地方式等に影響されるが、その持続時間は、百μsから数msである。送電線の絶縁強度は電圧波形の影響を大きく受け、とくに開閉サージに対して最も弱い特性を示す。このため、開閉サージに対する絶縁は送電線絶縁設計の基本要因の一つである。
出典―パワーアカデミー事務局
地絡故障の検出
電気設備において発生する故障としては、地絡事故がとても多いです。
地絡事故の検出や保護を確実に行うために、最適な接地設計が必要となります。
地絡とは
地絡は、電気回路と大地が相対的に低いインピーダンスで電気的に接続される状態のことを言います。
双方の間に流れる電流を『地絡電流』と呼びます。
地絡事故時には零相電流や零相電圧が発生するため、地絡故障の検出が可能となります。
インピーダンスとは
インピーダンスは、交流回路における電圧と電流の比である。単位としてはオーム(表記は[Ω])が用いられる。
インピーダンスは、直流電流におけるオームの法則の電気抵抗の概念を拡張し、交流電流に適用したものである。
インピーダンスは複素数の形で表され、周波数に依存しない抵抗成分を実数で、周波数に依存する成分を虚数で表し、その両者の和の形で表される。
出典―パワーアカデミー事務局
零相電流とは
多相式不平衡交流回路の電流は、各線の正相方向に流れる「正相電流」、逆相方向に流れる「逆相電流」、各線に共通して同相で流れる「零相電流」に分解して考えることができる。
このうち、零相電流は平衡交流回路では存在しない(大きさが0である)ものであり、零相電流が流れている場合は各相のバランスが失われていることを意味する。
零相電圧とは
三相不平衡電圧を対称座標法で正相分、零相分及び逆相分に分解した時の零相分の電圧。各相電圧のフェーザ和の1/3となる。
出典―建築用語.net
接地の目的
上記の事項を踏まえて、接地の目的は
- 機器の筐体(きょうたい)
- 電線路の中性点
- 電子機器
上記を大地と電気的に接続することです。
大地と接続するためのターミナルを接地極といい、この電極が大地との間に接地抵抗を持つため、地絡電流が生じるとオームの法則に従い電位上昇が生じます。
接地抵抗が【0Ω】であれば、周囲に障害は発生しませんが、現実的に接地抵抗【0Ω】はありえません。
電位上昇を予防することが、接地をする一番大きい目的です。
電位上昇に伴う障害としては、
- 人体への感電
- 機器の損傷
- ノイズの発生
- 誤動作
などがあげられます。
図と計算で表すと以下のとおりとなります。
オームの法則【E(V)=R(Ω)×I(A)】より、接地抵抗【100Ω】に電流【1A】を流すと接地端子電圧は
100Ω × 1A=100V
大地の電位も接地極点が最大100Vとなり、接地極から遠ざかるにつれて電位が減少していきます。
上図の場合、だいたい10m程度遠ざかると電位は0Vになります。
接地の分類
各種接地の目的と種別の内容
目的 | 種別 | 内容 | |
保安用 接地 | 感電 防止 | 機器 接地 | 低電圧電気機械・器具の金属筐体の接地 |
雷電 防止 | 系統 接地 | 高低圧の混触時に発生する配電用変圧器二次側の電位上昇を抑制するための接地 | |
避雷針用 接地 | 避雷針が雷の直撃を受けた場合、落雷電流を大地に流すための接地 | ||
帯電 防止 | 帯電防止用 接地 | 絶縁体に摩擦などで発生する静電気を放電するための接地 | |
ノイズ 低減 | 電磁誘導対策用 接地 | 電源ケーブル等に流れる電流から発生する誘導電圧によるノイズを低減するための通信ケーブルのシールド両端接地 | |
静電誘導対策用 接地 | 帯電した物体や電圧のかかった導体から静電誘導を受けて発生する電圧によるノイズを低減するための通信ケーブルのシールド片端接地 | ||
機能用 接地 | 基準 電位設定 | 基準電位用 接地 | 電気回路の安定動作のための基準電とする接地 |
電蝕 防止 | 電蝕防止用 接地 | 地中埋設建築物が漏れ電流などで電気腐食を起こすのを防止するための接地 |
接地種別と適用範囲、接地線について
接地工事 の種類 | 接地抵抗の 基準値と適用条件 | 設置工事の 適用範囲・箇所 | 接地線の 太さ |
A種 | 10Ω以下 | 高圧用の電気機械器具の金属製外箱、避雷器などに「施す設置工事 高圧危機による感電等の災害防止用の接地 | 直径2.6mm (5.5m㎡) |
B種 | 150V/一線地絡電流(A)
| 高圧と低圧を変成する変圧器の低圧側1線(相)に施す設置工事 | 直径4.6mm (12m㎡) |
C種 | 10Ω以下 電路に地絡が生じた場合に0.5秒以内に自動的に電路を遮断する装置が施設されている場合は300Ω以下 | 300Vを超える低圧電気機械器具の金属製外箱や金属管などに施す接地工事 | 直径1.6mm (2.0m㎡) |
D種 | 100Ω以下 電路に地絡が生じた場合に0.5秒以内に自動的に電路を遮断する装置が施設されている場合は500Ω以下 | 300V以下の低圧電気機械器具の金属製外箱や金属管などに施す接地工事 |
接地方式について
配電系統は、交流の単相2線式、単相3線式、三相3線式、三相4線式、直流の2線式、3線式等の方式に分類されています。
配電系統における接地方式は3種類に分類されています。
- TT接地方式
- TN接地方式
- IT接地方式
ここで使用する『T』や『N』などをコードと呼び、それぞれに意味があります。
文字位置 | タイトル | コード | 意味 |
第1文字 | 電力系統と 大地との関係 | T | 1極を大地に直接接続すること |
I | 全充電部を大地から絶縁するか、又はインピーダンスを介して1点を大地に接続すること | ||
第2文字 | 機器の接地 | T | 電力系統のどの接地点からも独立した大地に機器を直接電気的に接続すること |
N | 電力系統の接地点(交流系統では、電力系統の接地点は通常では中性点、又は中性点が無い場合は1相)に機器を直接電気的に接続すること | ||
続く文字 | 中性線及び 保護導体の扱い | S | 保護機能を中性線又は接地側導体(又は交流系統においては接地側相)とは別の導体で行うこと |
C | 中性線及び保護機能を一つの導体(PEN導体)に統合すること |
TT接地方式
TT接地方式は、系統接地と機器接地がそれぞれ独立している、日本の接地方式です。
もう少し詳しく書くと、電源部の接地(系統接地)と露出導電性部分の接地(機器接地)が電気的に分離できる場合に適用する方式です。
露出導電性部分の接地は保護導体(PE)によって、接地極に接続しています。
露出導電性部分
通常時は充電されていないが、基礎絶縁が劣化あるいは低下した場合に、充電部となる電気機器の導電性部分で、人間が接触する可能性がある部分のことをいいます。(機器の外装など)
保護導体(保護接地導体)
保護接地導体とも呼ばれており、保安接地のための導体で、PEとも表されます。
PE: Protective earthing conductor
TN接地方式
TN接地方式は、欧州方式とも呼ばれていますが、近年では日本にも取り入れられている方式です。
TN接地方式は、主に3種類に分類されています。
- TNーS系統
- TNーC系統
- TNーCーS系統
TT接地方式と異なる点は、系統接地と機器接地が導体で接続されている点です。
TN系統 | 概要 |
TN-S系統 | 系統全体に渡って独立した保護導体を用いているもの |
TN-C系統 | 系統の一部で、中性線及び保護機能を一つの導体で兼用するもの |
TN-C-S系統 | 系統全体で、中性線及び保護機能を一つの導体で兼用するもの |
IT接地方式
電源系統は全く接地されないか、 もしくはインピーダンスを通して接地される方式です。
電源系統の接地は、 相の1つを接地する場合と、 相とは別の点を接地して中性点とする場合とがあります。
電子機器や通信機器を接続する系統はこの方式になります。
系統接地と中性点接地
系統接地とは
配電を含む、電力系統の電路を大地に接地することを『系統接地』といいます。
地絡故障で最も発生の確立が高い1線地絡故障が発生すると、地絡した相以外の健全相の対地電圧が上昇し、さらに故障範囲が拡大する恐れがあります。
この電圧上昇をできるだけ抑えることが重要で、系統接地や中性点接地が必要となります。
系統接地の分類としては
- 非接地系
- 接地系
があります。
非接地系は、電力測定装置を除き、大地に対する意識的接続がない電力系統をいいます。
接地系は、電路又はある点(変圧器や発電機の中性点など)の少なくとも1つを、直接または電流制限装置(抵抗体やコンデンサなど)を介して意識的に設置してある電力系統を言います。
非接地 | 抵抗接地 | 直接接地 | ||
低抵抗接地 | 高抵抗接地 | |||
結線と有効接地電流 | ||||
主な適用系統 | ・高圧回路 | ・特別高圧回路 ・高圧回路 | ・特別高圧回路 高圧回路(欧米) | ・特別高圧回路 高圧回路(欧米) ・低圧回路 |
1線完全地絡時の健全相電位 | √3E | √3E | √3E | ・特高(有効接地系):1.3E以下 ・低圧(非有効接地系:√3E |
1線地絡時の過渡電圧一般 | 間欠アーク地絡による過電圧がある(ケーブル系統のみ) | 一般的に小さい | 一般的に小さい | 小さい |
混触時の高圧側電位上昇 | 大 | 中~大 | 小~中 | 小 |
弱電線への誘導 | 小 | 中 | 大 | 大 |
地絡点検出感度 | 大 | 中 | 小 | 小 |
接地抵抗(Z) | ∞ | R | 0 |
中性点接地とは
中性点接地とは、電力系統において発電機や変圧器の電気的中性点を接地することをいいます。
受配電系統の送電方式は、交流三相3線式が多く採用されています。
各相の電流電圧ベクトル和が、必ずゼロとなる電気的中性点が存在します。
中性点接地の目的は主に3つあります。
- 地絡事故時の健全相の対地電圧上昇を抑制し、電線路・電力機器の絶縁を軽減させる
- 系統の地絡事故時に中性点を通じて電流を流し、保護継電器が確実に動作する電流・電圧を確保し、自国間を早期に開放する
- 雷撃によって発生する、アーク地絡などによる電線路の異常電圧の発生を防止する
地絡保護
地絡故障個所の検出や遮断には、地絡継電器(GR)を使用します。
電流成分による地絡保護
地絡電流の検出には、各相に設置した変流器(CT)の残留回路から取り出す方法があります。
配電系統は地絡電流が小さいので、正確な検出のため、零相変流器(ZCT)が使用されています。
零相変流器(ZCT)は、一時側巻き線を三相導体としたもので、常時あるいは短絡事故時においても各相電流のベクトル和は0であるため、二次側に電流は発生しないという特徴があります。
残留回路
100A程度の接地系統における零相電流検出に利用される回路です。
負荷電流が著しく大きく、変流比が大きい場合(400/5A以上)には、継電器に十分な零相電流が得られないことがあります。
電流×電圧成分による地絡保護
地絡故障電流の大部分は零相充電電流であり、地絡電流は系統全体の対地静電容量を通って電源側へ還流します。
対地静電容量による充電電流が200mA以上になると、地絡電流の方向を検出できる方式が必要となります。
零相電流を零相変流器(ZCT)で検出するほかに、零相電圧を零相電圧検出装置(ZPD)(母線の場合は接地変圧器(EVT))で検出し、移送を比較して零相電流の方向を確認する方式が採用されます。
不要動作を確実に防止するためには、充電電流が地絡継電器(GR)感度電流の1/2以上になると、地絡方向継電器(DGR)を採用するのが望ましいとされています。
地絡電流の分流
まとめ
この記事では
- 接地の目的を理解しよう!
- 接地の分類
- 接地方式について
- 系統接地と中性点接地
- 地絡保護
について解説させていただきました。
電気を扱う人にとって、接地の知識は命にも関わる為とても重要です。
今回解説させていただいたのは、接地に関する一部の基本知識です。
突き詰めていくと、まだまだ多くの情報があります。
知識を身に付けるだけで、見えてくる景色も変わってきます。
日々勉強して、沢山の知識を身に付けていきましょう。
接地についてもっと詳しく知りたい!というかたは『接地・等電位ボンディング設計の実務知識』にとても詳しく書いてあります。
著者の高橋 健彦さんは、接地技術に関するスペシャリストです。
接地分野の第一人者で、IEC規格に携わったり、海外の研究者とも親交をもちグローバルな活躍をされている方です。
内容は専門的で、題名のとおり半分くらいは設計ですが、設計以外の感電の基礎知識、
、接地方式の特徴などはとても参考になります。
とてもオススメの参考書です。
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